こころの病気

「気分が落ち込んで、これまで楽しかったことが楽しめない」「体がだるくて、とにかく何もしたくない」「眠りが浅くて疲れがとれず、仕事や勉強が手につかない」「食欲がわかない」といった症状が続く場合、うつ病の可能性があります。

 

しかし、治療が必要な病気なのか、それとも休んでいれば自然に良くなるのか、自分で判断することは難しいものです。多くの場合、こころの症状よりもからだの症状が気になって、まずは内科などを受診します。検査でも異常が見つからなければ、「ひとまず様子を見ましょう」と言われることが多いかと思いますが、それでも一向に良くならない場合は、早めにご相談ください。

双極性障害は、気分の波(躁状態とうつ状態)を繰り返す病気です。程度は人によって様々で、躁状態の時に突然大きな買い物をしたり、服装やメイクが派手になったり、不眠不休で活動し続けたり、性的に奔放になったりする方もいれば、ほとんど症状が目立たない方もいます。本当は双極性障害であっても、軽い躁状態に気づかず、うつ病と診断されている方も少なくありません。双極性障害の場合、うつ病とは治療法が異なります。うつ病の治療をしてもなかなか治らない方が、実は双極性障害だったというのも、よくあることです。

適応障害は、自分を取り巻く環境(仕事や家庭)にうまく馴染むことができず、そのストレスから心やからだのバランスを崩してしまう病気です。進学、就職、結婚、昇進、異動など、まわりの環境が新しくなったタイミングで発症する場合がほとんどです。ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善していきます。しかし、ストレス要因から離れることが難しいなど、原因を取り除くことができない状況では、症状が長引くこともあります。

火事や地震など、突発的な生命の危機に直面した時、多くの人はパニック状態に陥ります。突然胸が苦しくなったり、動悸が早くなったり、冷や汗が出たりすることもあるでしょう。ところが人によって、なんでもない普通の時に、パニック状態のような反応が起きることがあります。これを「パニック発作」といいます。「この発作のせいで死んでしまうかも知れない」と不安になって、救急車で病院に運び込まれるけれども、どこを調べても異常は見つからない、といったことは、パニック障害をかかえる多くの方が経験されていることです。パニック障害では、基本的にパニック発作を何度も繰り返します。はじめは心配していた家族や友人も、次第に「またか」といった顔をするようになり、誰からも理解してもらえないつらさを感じることもあります。

「鍵を閉め忘れたかもしれない」「鍋を火にかけたままだったかもしれない」と不安になって確認することは、多くの方が日常的に経験していることです。しかし中には、不安やこだわりが度を超していて、生活に支障を来たしている方もいます。戸締まりの確認が止められず、外出するまでに時間がかかってしまったり、「手が汚れているのではないか」と不安になって手洗いを繰り返すあまり、手荒れがひどくなってしまったり、些細な汚れが気になって、買ったばかりの家具や洋服を頻繁に捨ててしまったりすることもあります。なぜ強迫性障害になるのか、はっきりとした原因は分かっていませんが、性格、生まれ育った環境、ストレスや感染症など、さまざまな要因が関係していると考えられています。なぜ症状が続くのか、なにが影響して症状が悪化するか、など解明が進んでいることもあり、治療が可能な病気です。

PTSDは、過去の強い恐怖感を伴う記憶(自然災害、火事、事故、暴力、レイプなど)がこころの傷となり、そのことが何度も思い出されて恐怖を感じ続ける病気です。「突然、つらい記憶がよみがえる」「記憶を呼び起こす状況や場面を避けてしまう」「常に神経が張り詰めている」といった症状が出てきます。ストレスとなる出来事を経験して数週間後、時には何年も経ってから症状が出ることもあります。しかし、同じような経験をした人が全員PTSDになるわけではありません。どんな人がPTSDになりやすいのかは、まだ分かっていません。こころの弱い人がPTSDになるわけではなく、屈強な男性がPTSDに悩まされている例もみられます。

解離性障害は「自分が自分である」という感覚を失ってしまう状態のことです。たとえば、過去の記憶の一部が抜けて落ちていたり、体の感覚の一部を感じられなくなったり、感情が麻痺したり、いつのまにか自分の知らない場所にいたりします。原因としては、災害、事故、虐待、暴行、レイプなどによるストレスや心的外傷が関係していると言われています。解離性障害でみられる症状は、つらい体験から自分を切り離そうとするために起こる、一種の防衛反応です。治療の基本は、安心できる環境をつくること、家族などまわりの人に病気を理解してもらうこと、主治医との信頼関係をつくることなど、安心できる関係性を築くことです。

社会不安障害は、レストランでの食事、人との会話、人前でのスピーチなど、人に注目される場面において、自分が恥ずかしい思いをするのではないかと怖くなってしまう病気です。不安な気持ちが高まるだけでなく、電車やバス、繁華街など、人が多く集まる場所を避けるようになったり、学校や仕事に行けなくなったり、日常の趣味や人間関係が制限されたりします。失敗や恥ずかしい思いがきっかけになることもよくありますが、思春期の頃は、自分に自信が持てないことがきっかけになることもあります。お薬や、考え方を修正するトレーニングを行いながら治療していきますが、治療に時間がかかることも多く、根気強く治療に向き合っていくことが大切です。

身体表現性障害は、症状を説明することができる身体の異常や検査結果がないにも関わらず、痛みや吐き気、しびれ、けいれんなどの身体の症状が長く続く病気です。症状は身体のさまざまな場所に起こり、しばしば変化します。あちこちの病院を転々として、こころの病気と気づかれるまでに長い時間を要することもあります。痛みが主となるものを疼痛性障害といいます。身体の病気は存在しないにも関わらず、「重篤な病気にかかっているに違いない」「病気が進行しているに違いない」という気持ちが非常に強くなるものを心気症といいます。麻痺や脱力、失立、失歩、失声、失明、失語、けいれんなどの症状を引き起こすものを転換性障害といいます。治療はまず、身体に問題はないことをきちんと理解、納得することが大切です。その上で、症状が悪くなるきっかけや、逆に良くなる要因を見つけ出し、症状が軽くなるような行動をとっていきます。お薬の助けを得ることも有効です。

睡眠時間には個人差がありますが「昼に活動して夜に眠る」という当たり前のことができなくなり、生活に支障をきたした状態を、睡眠障害と呼びます。不眠や過眠のほかに、概日リズム睡眠障害、睡眠時随伴症などがあります。睡眠障害の背景に、身体やこころの病気が隠れていることもあります。また、カフェインの摂り過ぎ、寝る前のアルコールやタバコ、布団に入った後のテレビやスマートフォンの使用が影響していることもあります。原因となる病気の治療、生活習慣の改善を行い、それでも十分な効果がない場合は、お薬による治療を行います。睡眠の問題でお悩みの方は、生活を振り返ってみましょう。

概日リズムの維持・強化
  • 毎日同じ時間に起床し、太陽の光を浴びる
  • 就寝1~2時間前に、ぬるめの温度で入浴する
  • 昼寝をするなら、午後3時までに20~30分程度にする
生活習慣を見直す
  • 1週間単位で生活リズムを見直し、睡眠不足に注意する
  • 夕方以降の激しい運動や、興奮する行動を避ける
  • 就寝前1~2時間はテレビ、パソコン、スマートフォン、ゲームを避ける
嗜好品に注意する
  • 就寝前4時間のカフェインの摂取を避ける
  • 就寝前1時間の喫煙を避ける
  • 就寝前にあたたかい飲み物を飲んでみる
就寝環境を快適にする
  • 明るさ、音、温度、湿度、換気を調節する
  • 寝具を自分に合ったものにする
  • 寝室を眠ること以外の目的に使用しない
睡眠にこだわりすぎない
  • 睡眠時間、不眠になる原因について考えすぎない
  • 夜中に目が覚めても、時刻を確認しない

摂食障害は、10代~20代の女性に多い病気で、「神経性食欲不振症」と「神経性大食症」の2つに大別されます。

 

「神経性食欲不振症」では、体重が減っているにも関わらず、太ることへの強い恐怖があり、過度な食事制限、嘔吐や下剤の乱用、無理な運動を行います。その結果、低体重、低栄養、無月経、徐脈、低血圧、低体温などを来たします。太ももやおなかなどボディラインへのこだわりが強く、1日のうちに何度も鏡を確認したり、そのために外出ができなくなったりします。極端な偏食、隠れ食い、盗み食い、むちゃ食い、万引き、自傷行為などを認めることもあります。

「神経性大食症」では、体重は標準内を保っているものの、むちゃ食いの反復と、無理な食事制限、嘔吐、下剤の乱用を認めます。むちゃ食いは、短時間に大量の食事を摂取し、しかも食事摂取に対するコントロールがきかなくなっているものです。食事制限により痩せられなかったという自己嫌悪、むちゃ食いに対する後悔、罪悪感を感じることが多く、自傷行為、自殺企図、薬物乱用、万引きなどを行ってしまうこともあります。


こうした病気の背景にあるのは、「スリムであること」をもてはやす社会、文化の影響です。マスコミや雑誌には、スリムになるための広告があふれています。日本では、20代女性の平均体重は毎年低くなっており、標準体重のー10%の一歩手前まできています。個人個人の病気の原因は異なっていても、全体として、こうした社会の風潮が影響していることは否定できません。両親の別居や離婚、両親との関わりの乏しさ、親からの高すぎる期待、家族から体型や体重に関して批判的なコメントをされることなども、摂食障害の発症に関係していると言われています。

摂食障害は、治療が可能な病気です。身体を元の健康な状態に戻すためには、次のような側面からの取り組みが役立ちます。食行動のお悩みを抱えている方は、できることから取り組んでみましょう。

  望ましいこと 望ましくないこと
食事や体
  • 少量ずつでも規則的に食べる
  • 1回の食事は30分以内
  • 決まった曜日の決まった時間に体重をはかる
  • 食べたり食べなかったりする
  • 1回の食事に1時間以上かける
  • 食事のたびに体重をはかる
考え方、気持ち
  • 抱えている不安やストレスに気づく
  • 不安やストレスに対処する力を身につける
  • 完璧主義
  • 全か無か、という極端な考え方
対人関係
  • 自分の気持ちを伝える練習をする
  • 断る力を身につける
  • 相談相手を持つ
  • つらい気持ちを一人で抱え込む
  • 他人の評価に振り回される

統合失調症は、約100人に1人がかかる、決して珍しくない病気です。思春期に発症することが多く、最初は統合失調症と分からず、しばらくしてから診断がつくこともあります。よく知られている症状は、「幻覚」と「妄想」です。「幻覚」は、実際にないものがあるように感じることで、自分の悪口や噂が聴こえてくる「幻聴」などがあります。「妄想」は、明らかに誤ったことを事実であると信じこんでしまうことで、嫌がらせをされているといった「被害妄想」などがあります。統合失調症は、慢性の経過をたどりやすい病気ですが、近年新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、社会復帰できる方が多くなっています。しかし、症状がなくなったからと自分の判断だけで薬をやめてしまうと、再発してしまうことが多いため、症状が出ないように必要な薬を続けながら、気長に病気と付き合っていくことが大切です。

妄想性障害は、妄想が主体となる病気です。妄想以外の症状はほとんどなく、日常生活は普通に送れている方がほとんどです。妄想というのは、「明らかにあり得ないことであるにも関わらず、本人が信じて疑わない思い込み」のことです。妄想性障害には、いくつかのタイプがあります。たとえば、「私はある人から愛されている」と強く信じて疑わず、家や職場に押しかけて問題になることがあります。「自分は嫌がらせを受けている」と訴えて、相手に暴力を振るったり、裁判を起こしたりすることもあります。配偶者の浮気を強く信じて疑わず、明らかな証拠がないにも関わらず「間違いなく浮気をしている」と信じ込み、いくら相手が身の潔白を証明しても納得しないこともあります。お薬による治療で症状が落ち着いてくる場合が多いですが、途中でお薬をやめてしまうと症状が再発しがちです。

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの症状を示す病気です。その程度は人によって様々で、成長とともに症状が変わっていくこともあります。

  子ども 大人
不注意
  • 勉強で不注意なミスが多い
  • 宿題ができない
  • 大事なものをすぐになくしてしまう
  • 興味のあることに集中し過ぎて、切り替えが苦手
  • 仕事でケアレスミスが多い
  • 忘れ物、なくし物が多い
  • 時間管理が苦手
  • 仕事や作業を順序立てて行うことが苦手
多動性
  • 授業中、落ち着いて座れない
  • 道路に飛び出す
  • 不適切な状況で走り回る
  • 静かに遊べない
  • 貧乏ゆすりなど、目的のない動きが多い
  • 会議中にそわそわ落ち着かない
  • 家事をしていても、他のことに気をとられる
  • おしゃべりを始めると止まらない
衝動性
  • 質問が終わらないうちに、答えてしまう
  • 欲しいものがあると、激しく駄々をこねる
  • 授業中に不用意な発言をする
  • 後先を考えず、思ったことをすぐに口にする
  • 衝動買いをしてしまう
  • 衝動的に、人を傷つけることを言ってしまう

ただ、こうした症状があるすべての方がADHDというわけではありません。似た症状をもつ病気は、他にもあります。また、ADHDに他の病気が合併していると、症状の見極めが難しくなることもあります。大人になってからADHDと診断される方の中には、子供の頃からずっとADHDの症状に悩まされていて、自分なりに工夫や対策をしていたけれども、なかなか状況が改善されずに悩んでいた、という方もいます。大学進学や就職を機に、症状が目立ってくることもあります。治療は、環境の調整を行うほか、必要に応じてお薬を使います。

自閉症スペクトラム症は、「対人関係が苦手」「コミュニケーションが苦手」「特定の強いこだわりがある」といった特徴をもつ発達障害のひとつです。以前は、言葉の遅れの有無などによって「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」などに分けられていましたが、共通した特性がみられることから、虹のように様々な色が含まれるひとつの集合体として捉えようという動きが出てきて、現在は「自閉症スペクトラム症」と呼ばれています。

対人関係
  • 表情や話しぶり、視線などから、相手の気持ちを読み取ることができない
  • 空気を読めず、周囲の人のひんしゅくを買うことがある
  • 仕事についても融通が利かず、臨機応変に仕事がこなせない
コミュニケーション
  • 友人と親密な関係が築けない
  • 孤立する、受け持過ぎる、一方的すぎるなど、双方向の対人関係が苦手
  • セリフを棒読みするような話し方をする
こだわり
  • 方法や順序、並べ方に強いこだわりがあり、いつも同じでないと気が済まない
  • 興味のあることは優秀な結果を出すが、興味のないことはほとんど手を付けない
  • スケジュール管理がうまくできない
その他
  • 些細な物音に過敏に反応する
  • からだの動かし方が不器用である
  • 運動がぎこちなく苦手である

このような特性のために、本人は生きづらさを感じることがあります。一方で、「人の意見に左右されず、課題を遂行できる」といった特性が、むしろその人の強みになることもあります。「高い記憶力」「好きなことへのこだわり」といった特性をうまく利用して、仕事や趣味で充実した生活を送っている方もいます。その人が持って生まれた「個性」ととらえて、生きづらさを軽減しながら、得意なことを伸ばすサポートが大切です。

認知症は、正常に働いていた記憶や思考などの能力が、後天的に低下していく病気です。65歳以上の高齢者のうち、10人に1人がかかります。認知症にはいくつかの種類があります。一番多いのがアルツハイマー型認知症で、ほかにも血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。「認知症は、高齢者の病気」というイメージが強いですが、若くても認知症を発症することがあります。若年性認知症の方は、全国で3万人〜10万人と言われています。認知症ほどではないけれど、正常なもの忘れよりも、記憶などの能力が低下している「軽度認知障害」という状態もあります。軽度認知障害と診断された方のすべてが認知症になるわけではありませんが、4年のうちに約半数が認知症になるという調査結果もあります。また、認知症と診断された方の中に、うつ病が隠れていることもあります。その場合、適切にうつ病の治療を行うことで、症状の回復が見込めます。

認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の2つに大別できます。「中核症状」は、記憶力の低下、理解力や判断力の低下などです。「周辺症状」には徘徊、暴力、暴言、妄想、せん妄、不眠などがあります。こうした症状を伴う認知症の方を、ご家族だけで介護することは、心身ともに疲弊することにつながります。介護保険を申請し、デイサービス、ヘルパー、入所施設などの社会資源を適切に利用しながら、互いに無理のない、持続可能な形を見つけることが大切です。

アルツハイマー型認知症に対しては、中核症状を一時的に改善させる薬があります。これは、認知症を「治す」薬ではなく、「進行を遅らせる」薬であり、認知症の進行を完全に抑えるものではありません。また、これらのお薬を服用することで、怒りっぽくなるなどの副作用がみられることもあり、全員に適しているわけでもありません。一人一人の症状に応じて、慎重に対応していくことが必要です。なお当院では、MRIなどの詳しい検査は、京都駅前の武田病院と連携しております。検査をご希望の方も、お気軽にご相談ください。